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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)7979号 判決 1992年8月27日

原告

和合秀典

福田宏

松田重孝

原告ら訴訟代理人弁護士

大津卓滋

萱沼昇

被告

首都高速道路公団

右代表者理事長

松原青美

右訴訟代理人弁護士

上野健二郎

田中公人

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一原告和合秀典が、別紙一記載の年月日に被告の管理する首都高速道路を通行したことによって、被告に対し、そこに記載の免れた料金額、割増金及び手数料の合計一万三五四〇円の債務を負っていないことを確認する。

二原告福田宏が、別紙二記載の年月日に被告の管理する首都高速道路を通行したことによって、被告に対し、そこに記載の免れた料金額、割増金及び手数料の合計三四〇円の債務を負っていないことを確認する。

三原告松田重孝が、別紙三記載の年月日に被告の管理する首都高速道路を通行したことによって、被告に対し、そこに記載の免れた料金額、割増金及び手数料の合計六四〇円の債務を負っていないことを確認する。

第二事案の概要

一本件は、昭和六二年に通行料金が六〇〇円に増額された首都高速道路を通行しながら、従来の五〇〇円の料金しか支払わなかった原告らが、首都高速道路公団から差額分の料金、割増金及び手数料の支払いを請求されたのに対し、右増額は、その必要性のないのに行われたもので無効であり、未払いの料金等はないとして、その債務の不存在確認を求めるものである。

二首都高速道路料金の決定、変更、料金及び割増金請求権等の発生、徴収に関する法制

1  被告の目的

被告は、首都高速道路公団法に基づいて設立された法人であって、その通行について料金を徴収することができる自動車専用道路の新設等を総合的かつ効率的に行うこと等により道路の整備を促進し、もって首都の機能の維持及び増進に資することを目的とするものである(首都高速道路公団法一条)。

2  被告の料金及び割増金徴収権限

道路整備特別措置法(以下「整備法」という。)は、被告は、首都高速道路公団法三〇条一項の規定により指示された基本計画に従って、当該基本計画に含まれている道路法四八条の二第一項の規定による指定を受けた自動車のみの一般交通の用に供する道路を新設又は改築して、料金を徴収することができると規定する(七条の二第一項)。また、被告は、右料金を不法に免れた者から、その免れた額のほか、その免れた額の二倍に相当する額を割増金として徴収することができる(整備法一四条の二)。

3  料金の決定及び変更

被告は、首都高速道路について料金を徴収し、又はこれを変更しようとするときは、運輸省令・建設省令の定めるところにより、料金及び徴収期間について運輸大臣及び建設大臣に対し認可の申請をしてその認可を受けなければならず(整備法七条の四第一項)、更に、あらかじめ、その額及び徴収期間を官報で公告しなければならない(同法一四条一項)。その料金額の変更等について道路整備特別措置法施行令(以下「施行令」という。)は、被告は、定められた料金の額が、その後における経済事情の変動その他の理由によって当該料金の額の算定の基礎となった事項に著しい変動を生じたため次項の料金額の基準に適合しなくなったと認められる場合においては、遅滞なく、当該料金の額又は料金徴収期間の変更その他必要な措置を執るようにしなければならないと規定する(五条一項)。

4  料金額の基準

整備法は、首都高速道路に係る料金の額は、その新設、改築のその他の管理に要する費用で政令で定められるものを償うものであり(以下「償還主義」という。)、かつ、公正妥当なものでなければならない(以下「公正妥当主義」という。)と規定し、そのほかの料金の基準は政令で定めることとしており(一一条一項、三項)、施行令は、右規定を受けて、償還の対象となる費用を具体的に列挙し(一五条の五)、かつ、首都高速道路に係る料金の額は、自動車交通上密接な関連を有する首都高速道路で運輸大臣及び建設大臣が定めるものごとの料金徴収総額が首都高速道路に係る施行令一条の五に掲げる費用の合算額に見合う額となるように定めなければならない(一条の六第一項、以下「プール制」という。)と規定し、更に、料金の額は、右規定によるほか、徴収期間及び利用効率を勘案して定めなければならないものとされている(同条三項)。

5  料金の徴収

料金は、整備法七条の二の規定に基づき新設し、又は改築した首都高速道路を通行する自動車から徴収するものとされ(同法一二条一項)、料金及び割増金を納付しない者がある場合においては、被告は、督促状によって納付すべき期限を指定して督促しなければならず(整備法二五条によって準用される道路法七三条一項)、その場合、被告は、政令で定めるところにより手数料を徴収することができ(同条二項)、右督促を受けた者が指定期間内にその納付すべき金額を納付しない場合には、被告は、国税滞納処分の例により、料金、割増金及び手数料を徴収することができる(同条三項)。右手数料の額は、督促状一通につき四〇円とされている(施行令七条二項)。

三当事者間に争いのない事実

1  首都高速道路東京線は、被告が、整備法七条の二に基づき新設又は改築して、料金を徴収することができる道路である。

2  首都高速道路の従前(昭和六〇年一月二四日から昭和六二年九月九日まで)の料金は、東京線が普通車一台につき五〇〇円、大型車一台につき一〇〇〇円、神奈川線が普通車一台につき四〇〇円、大型車一台につき八〇〇円であったが、被告は、これを東京線で普通車一台につき六〇〇円、大型車一台につき一二〇〇円とし、徴収期間を公告に係る料金の徴収区間の一部が供用された日から四八年間とすることとし(神奈川線の料金は従前のままとされた。)、運輸大臣及び建設大臣の各認可を経て昭和六二年九月四日これを官報で公告し、右公告において料金変更を同月一〇日から実施する公示をした(以下「本件料金改定」)という)。

3  原告らは、それぞれ別紙一から三まで記載の年月日に、普通車により首都高速道路東京線を通行したが、その際通行一回について金五〇〇円しか支払わなかった。

4(一)  被告は、原告和合に対し、昭和六二年一二月二三日不法に免れた料金として、その額四五〇〇円(一〇〇円×四五回)及び割増金九〇〇〇円(二〇〇円×四五回)の合計一万三五〇〇円について、納入期限を昭和六三年二月一日として、納入告知書により納入告知をしたが、これが支払われなかったので、同月五日納入すべき金額一万三五四〇円(前記金額に手数料四〇円を加算したもの)を、同月一九日までに支払うよう督促状により督促した。

(二)  被告は、原告福田に対し、昭和六三年二月一日不法に免れた料金として、その額一〇〇円(一〇〇円×一回)及び割増金二〇〇円(二〇〇円×一回)の合計三〇〇円について、納入期限を同年三月一二日として、納入告知書により納入告知をしたが、これが支払われなかったので、同月二三日納入すべき金額三四〇円(前記金額に手数料四〇円を加算したもの)を、同年四月六日までに支払うよう督促状により督促した。

(三)  被告は、原告松田に対し、昭和六三年二月一日不法に免れた料金として、その額二〇〇円(一〇〇円×二回)及び割増金四〇〇円(二〇〇円×二回)の合計六〇〇円について、納入期限を昭和六三年三月一二日として、納入告知書により納入告知をしたが、これが支払われなかったので、同月二三日納入すべき金額六四〇円(前記金額に手数料四〇円を加算したもの)を、同年四月六日までに支払うよう督促状により督促した。

5  被告の首都高速道路の管理費の実績額は、昭和六一年度について一三一六億円であって、同年度の予算総額を五二億円下回っており、昭和六二年度については、一三二八億円であって、被告の償還計画における額を六二億円下回っている。また、料金収入の実績額は、昭和六一年度について一四六七億円であり、昭和六二年度について一七七七億円である。

6  公共輸送機関やその他の公共料金などについて、昭和三八年から昭和六二年度までのその値上げの経過は、昭和三八年度を一〇〇として指数に表すと、公共輸送機関である日本国有鉄道(旅客)、営団地下鉄、東京都営バス及びタクシー(東京)の各料金については別紙七の1のとおりであり、他の公共料金である電灯、都市ガス、水道及び郵便(はがき)、新聞購読料金並びに日本放送協会放送受信料の各料金については別紙七の2のとおりであり、国民所得及び消費者物価指数(東京都区部)については別紙七の3のとおりである。

四争点及びこれについての当事者の主張

1  原告らは、本件訴えによって、被告のした首都高速道路料金の改定が整備法に規定する料金基準を満たすものであるかどうかを争うことができるか。

(被告の主張)

(一) 整備法一一条一項は、首都高速道路の料金設定基準として償還主義と公正妥当主義を定めているが、右規定は、以下のとおり、行政組織相互間における内部規範であって、料金債権が成立するための効力規定ではないから、右基準への適合性は料金債権の成立要件ではない。したがって、料金変更の必要性及び変更料金の基準適合性は、行政上又は政治上の当否が問われることはあっても、司法審査の対象となることはなく、本件における審判の対象にはならないものである。

(二) 被告は、形式的には国と別個の法人であるが(首都高速道路公団法二条)、同法の諸規定に照らせば、実質的には一種の政府関係機関であり、広い意味の国家行政組織の一部をなすから、料金認可は行政機関相互間の内部的行為に準ずるものと解される。

(三) 首都高速道路は、総費用の償還は道路の通行者から租税類似の負担金である料金を徴収することによって実現する有料道路であるから、このような有料制を認めた趣旨を全うし、国庫などからの借入金の返済を達成し、公費の濫用を避けるためには償還を合理的に実施すること、すなわち償還主義の実現が不可欠である。このように、償還主義は、合理的効率的な償還の実現を問題とするものであって、その性質上行政組織内部における指針であることが明らかである。

(四) 公正妥当主義は、償還主義を合理的・効率的ひいては適正に実現するための手段と解することができる。すなわち、償還の対象は、道路の新設又は改築、維持及び修繕、災害復旧に要する費用等の合算額とされており(施行令一条の五)、償還期間内に円滑かつ適正な償還を実現するためには、同期間内の道路を通行する自動車の走行台数に各自動車毎の通行料金を乗じた額が、右償還費用の合算額を満たすものでなければならない。公正妥当主義とは、首都高速道路の公共性に照らし、その料金の額が社会・経済に与える影響を考慮して、他の交通輸送期間の料金や公共料金との均衡、国民経済上の各種観点等から総合的にみて相当かつ合理的なものでなければならないとするものであって、そうでなければ、償還費用の合算額を満たすことが困難となる(高額に過ぎると走行台数の低減を来すことになる。)のである。したがって、右主義は、その実現を通じて償還主義を効率的に達成するという見地から首都高速道路の料金設定の在り方を一般的に宣言したものであって、個々の利用者の個別的な権利ないし利益を保護する趣旨にでたものではない。

(五) 整備法は、道路整備の促進とそれによる交通の利便の増進という目的を達成するため有料道路制度を導入して、その合理的・効率的運営を確保しようとするものであり、個々の通行者の個別的・具体的利益の保護を目的とはしていない。それは、首都高速道路が法律上も事実上もその利用が強制されるものではなく、他に既存の無料の道路が確保されているから、その通行者の利益保護の問題が特に生じないことからも明らかである。また、その料金が公正妥当であるかどうかは、抽象的な相対概念であって、その具体的内容は、社会経済、道路交通その他の諸情勢の進展に伴って変化し、他の交通輸送機関の料金や公共料金との均衡等の不確定要素を総合衡量してはじめて決定できるものであって、行政組織内部における合目的的な判断に委ねられ、その判断は尊重されるべきものであるから、公正妥当主義をもって料金債権の成否に影響を及ぼす基準とみることはできない。以上のとおり、償還主義及び公正妥当主義はいずれも行政組織相互間における指針に過ぎないというべきである。

(原告の主張)

(一) 道路は、国民生活一般と密接に関連し、その経済活動を支える基盤として国民生活に不可欠な施設であるから、その高度の公共性にかんがみ、我が国における基本的な法体系は、道路を公物とし、行政主体である国又は地方公共団体が、租税等の一般財源を用いて設定管理し、その使用は特定の対象に限定することなく一般に無料で公開することを原則としているのである。

有料道路制度は右原則の例外をなすものであるから、その通行料金等の設定及び変更は利用者の財産権を侵害しないように、「通行によって受ける利益の限度」を越えないという料金設定の枠をはめることによって、はじめて認められるものである。公正妥当主義は、償還主義によって利用者の財産権が不当に侵害されないようにこの便益主義の観点から歯止めをかける趣旨で定められたものである。したがって、公正妥当主義に反する料金を設定することは、利用者の財産権を侵害するものとして、違法無効となる。

(二) 運輸大臣と建設大臣の料金改定に対する認可は、行政組織相互間における内部行為であるから、これが国民との関係で実質的要件の存在について適法性を与えるような法律効果を発生させるはずはない。しかも、この認可自体は法律上争うことができないものであるから、公正妥当主義が料金改定の効力要件でないとすると実質的要件を欠く料金徴収が行われても、徴収された者がこれを争う手段がないという不当な結果となる。よって、整備法一一条一項が定める償還主義及び公正妥当主義は、料金改定の効力要件であると解すべきである。

2  右1の争点について、これを積極に解した場合、本件料金改定が、整備法一一条一項の要件を満たすものであるかどうか。

(被告の主張)

(一) 償還主義との関係について

(1) はじめに

① 償還主義は、料金の徴収総額が償還の対象となる費用と見合うものであることを求めるものであるが、償還主義に適合するよう料金額を決定するについては、償還の対象となる費用とともに料金徴収期間と当該期間の交通量が重要な要素となる。

② 償還の対象となる費用

施行令は、路線ごとに償還を行わず、自動車交通上密接な関連を有する首都高速道路で運輸大臣及び建設大臣が定めるものごとに償還を行うというプール制と呼ばれる方式を採用している(前記二4)。その趣旨は、自動車交通上相互に密接に関連して全体として一つのネットワークを形成している路線については、全路線を一体として扱うことより、路線ごとに償還を行うとした場合に生ずる問題(例えば、建設時期によって建設コストに高低があるため、路線ごとに料金の額及び無料開放の時期に差異が生じることになる。)を解消しようとするものである。現在供用中の首都高速道路については、運輸大臣及び建設大臣により全路線が自動車交通上密接な関連を有するものとして定められている。

③ 料金徴収期間

被告は、三〇年以内に償還を完了することを目途とし、料金徴収期間を供用開始後三〇年以内の期間としてきた。ただ、供用開始の日は、首都高速道路の各路線それぞれの供用開始日ではなく、首都高速道路の各路線の事業費を勘案して供用開始日を平均化した日(別紙四記載の算式により算出される。以下「換算起算日」という。)としている。

④ 交通量

将来の交通量は推計によるほかはない。被告は、実績交通量を基礎としつつ、交通工学上の手法を用いて推計をしている。その推計の方法は、基本的には、実績交通量を推計し、その交通量をもとにして次の第二年度の交通量を推計し、以降同様の方法を繰り返すものである。その間に新規路線の供用が予定されている場合には、その供用後は、付近の一般道路の交通量の一部が新規路線へ配分され、首都高速道路の交通量はその分純増することとなるから、別紙五記載の転換率式(一般街路から高速道路へ転換する交通量の比率である転換率を高速道路と一般街路の所要時間の比から算出するための算式である。)を用いて新規路線の供用に伴う純増交通量を推計し、また、料金改定が予定されている場合には、例えば料金が増額されれば増額幅に応じて交通量が減少するというように、料金改定の幅に応じて交通量変化が生じるから、別紙六記載の料金弾力性値(料金改定率に対する交通量の変化率の割合のことであって、料金が一パーセント増加するときに交通量がeパーセント減少する場合、料金弾力性値はeであるという。)をもとに料金改定後の交通量を推計している。なお、交通量の推計においては、首都高速道路の各路線全体が一つのネットワークを形成しているとはいえ、内部的には東京を中心とした都市圏と、横浜を中心とした都市圏とがあることから、東京線と神奈川線の二つに分けてそれぞれの交通量を推計している。

(2) 本件料金改定について

① 従前の料金

従前の料金は、昭和五九年一二月の認可に基づくものであるが、東京線にあっては、普通車一台につき五〇〇円、大型車一台につき一〇〇〇円、神奈川線にあっては、普通車一台につき四〇〇円、大型車一台につき八〇〇円であった(但し、東京線及び神奈川線の一部にあっては、普通車一台につき二〇〇円、大型車一台につき四〇〇円)。首都高速道路の料金を東京線と神奈川線の二つに分けているのは、ネットワークの内部に東京を中心とした都市圏と横浜を中心とした都市圏があり、これを一つの料金圏とすると、短距離の利用者の料金が割高となることを考慮したためであり、普通車と大型車の車種間比率を一対二としているのは、普通車か大型車かによって道路占有面積、道路維持費用等に差異があるためである。

② 料金改定の事情

従前の料金の認可時においては、支出として高速道路建設費等及び調査費一兆〇六二五億円のほか、管理費等三兆〇五二六億円が計上され、これらを料金収入によって賄いながら、当時の換算起算日から三〇年後の昭和八一年三月までに償還を達成することとしていた。ところで、被告は、昭和六二年九月九日をもって首都高速葛飾江戸川線及び高速葛飾川口線の供用を開始することとし、運輸大臣及び建設大臣は、施行令一条の六第一項の規定に基づき、右各路線をプール制としての償還主義が適用される道路と定めた(昭和六二年運輸省・建設省告示第三号)。その結果プール制の対象なる路線として定められた路線の償還の対象となる費用として計上される事業費は一兆五二一八億円となった。この内金四五九二億円は、右新規供用路線等の建設事業費及び既供用路線の改築事業費として追加されたものである。更に、これらの路線供用後には維持・管理費用を要することになった。このように、高速道路建設費等及び調査費だけでも膨大な額の増加が見込まれ、料金改定を実施しないまま償還を続けた場合には、本件の換算起算日である昭和五五年一二月から起算して三〇年後には償還不足金として九九六二億円の発生が見込まれ、右期間内に償還を達成することは不可能となった。

そこで、被告は、料金徴収期間内の償還を達成するため、料金改定を行うこととした。

③ 改定後の料金

そこで、昭和六二年九月一〇日以降の首都高速道路の料金は、東京線について普通車一台につき五〇〇円を六〇〇円に、大型車一台につき一〇〇〇円を一二〇〇円に、それぞれ改定されたものである。なお、神奈川線の料金は従前のままとされた。

(3) 改定料金の償還主義適合性

プール制の対象となる首都高速道路の全路線についての所定の費用の合算額と料金徴収総額とは、以下のとおりともに五兆六〇二五億〇九〇〇万円であって、見合っているから、改定された料金は、償還主義に適合している。

① 料金徴収期間

本件料金改定における換算起算日を別紙四の算式により求めると、昭和五五年一二月となるから、遅くとも、昭和八五年一二月が料金徴収期間の終期となる。そこで、被告は、これを参考として、換算起算日から二九年七月後(最初の路線の供用日である昭和三七年一二月から四七年七月後)まで料金を徴収することとした(もっとも、料金徴収期間内であっても、総利用交通量が予想した以上に多い場合には、償還の対象となる費用を早期に償還することが可能となり、右費用を償還したときは、被告の料金徴収は終了することになる)。

② 費用の合算額

費用の合算額は、別紙八の費用欄記載のとおり、合計五兆六七二九億一四〇〇万円である。右記載の昭和六〇年度以前の金額は決算額であり、昭和六一年度以降の費用額は未確定であったので、同年度以降の費用としては、昭和六一年度のものは予算現額(主務大臣の認可を受けた認可予算額に前年度繰越金等を加えた金額)を、昭和六二年度のものは認可予算額を、昭和六三年度以降のものは計画額をそれぞれ計上した。なお、費用の中に施行令一条の五第八号の利息が含まれているが、将来の利息の額の推計に当たって、被告は、首都高速道路債権及び民間借入金に係る利息については、発足以来の調達金利を平均化した金利を用いて推計している。これは、償還が長期にわたることから、その時点の金利によるよりも平均金利による方が信頼性・安定性のある数額が得られるからである。右平均金利としては、年7.251パーセントを用いた。また、別紙五の控除額欄記載の合計五九八億〇八〇〇万円は、地方公共団体からの補助金であって、施行令一条の六第二項の規定により費用の合算額から控除することとさてれいる。別紙八のその他欄記載の合計一〇五億九七〇〇万円は、費用ではないが、沿革的に費用として計上されてきた国際復興開発銀行(世界銀行)及び地方公共団体からの各借入金元本である。したがって、料金により償うべき費用の合算額は、五兆六七二九億一四〇〇万円から五九八億八〇〇〇万円と一〇五億九七〇〇万円を控除した五兆六〇二五億〇九〇〇万円となる。

③ 料金徴収総額

料金徴収総額は、別紙八の料金収入欄記載のとおり五兆六〇二五億〇九〇〇万円である。右記載の昭和六〇年度以前の金額は実績額であるが、昭和六一年度の金額は予算現額を計上し、昭和六二年度以降の金額は次のように交通量を推計して算出した。昭和六二年度については、新規路線として葛飾川口線の一部及び葛飾江戸川線の供用と料金改定が予定されていたので、既供用路線の交通量の推計とともに、前記(1)④記載の手法によって新規路線の供用に伴う純増交通量及び料金改定による交通量の変化を推計し、その影響を考慮した。なお、既供用路線の交通量の推計においては、昭和六一年四月及び五月の日平均交通量と過去五年間の月別実績交通量から算出された伸び率をもとにした。

昭和六三年度については、右により推計された昭和六二年度の交通量に全国道路交通情勢調査に基づき作成された統計資料等から算出した伸び率を乗じて推計し、以降の年度についても同様の方法で推計した。但し、昭和六四年度には五号線及び板橋戸田線の各一部が、昭和六五年度には葛飾江戸川線の出入路がそれぞれ供用される計画であったので、当該年度については、これらの新規路線の供用に伴う純増交通量も推計した。

なお、償還計画表では、昭和六二年度の料金収入が一六〇二億二八〇〇万円、管理費が、一三〇九億円と計画されていたのに、実績は、それぞれ一七七七億円、一三二八億円であったから、計画より総額二三七億円の収入増となっており、昭和六三年度についても、計画より総額三八一億円の収入増となっている。このような計画と実績の乖離は、我が国の好景気や夜間交通量の伸び等が反映されたもので予測は困難であったが、償還計画は、長期間にわたる収入と支出の予想に基づくものであるから、その性格上、料金改定直後の数年間をとらえて計画と実績の乖離を云々することは早計である。

また、償還計画表の昭和六一年度の料金収入は、前年度と対比すると減収となっているが、これは、料金収入を前年度の予算上の現金収入一三二七億九八〇〇万円を基礎として、その6.6パーセントの増加があるものと予測して算出したものであるが、その後、昭和六〇年度の料金収入について決算手続きが完了して決算上一四三六億三九〇〇万円に確定したことから、償還計画表には右決算額を用いたため、結果的に料金収入の逆転(減収)が生じたに過ぎない。ちなみに、償還計画表中の昭和六一年度の料金収入及び管理費等は、主務大臣の認可を受けた予算額に前年度繰越金等を加えた予算現額であって、被告が恣意的に操作することのできない金額である。

(二) 公正妥当主義との関係について

現行料金額は、以下のとおり公正妥当主義に適合している。

(1) 別紙七の1は、公共輸送機関である日本国有鉄道(旅客)、営団地下鉄、東京都営バス及びタクシー(東京)の各料金について、別紙七の2は、他の公共料金である電灯、都市ガス、水道及び郵便(はがき)の各料金、新聞購読料金並びに日本放送協会放送受信料について、別紙七の3は、国民所得及び消費者物価指数(東京都区部)について、いずれも首都高速道路の料金と比較するため首都高速道路の供用開始直後である昭和三八年度の指数を一〇〇として指数に表したものである。

(2) 右各表記載のとおり、昭和六二年度における首都高速道路の料金の指数は前記の料金改定により六〇〇(一キロメートル当たり料金の指数は三八九)となった。これに対し、別紙七の1によれば、他の公共輸送機関の料金の昭和六一年度の指数は、日本国有鉄道(旅客)が五六七、営団地下鉄が六〇〇、東京都営バスが一〇六七、タクシー(東京)が四七〇であり、首都高速道路の料金が他の交通輸送機関の料金と均衡している(ちなみに、首都高速道路につき一キロメートル当たり料金の指数を基準にうると、同表中では首都高速道路の料金の伸びが最も低い。)。

次に、別紙七の2によれば、他の公共料金の昭和六一年の指数は、電灯が一八三、都市ガスが二八八、水道が五八三、郵便(はがき)が八〇〇、新聞購読料金が六一八、日本放送協会放送受信料が二一三であり、電灯及び都市ガスの各料金並びに日本放送協会放送受信料の伸び率が低いものの、その余の伸び率を考え併せれば、首都高速道路の料金は、概ね他の公共料金とも均衡しているということができ、また、別紙七の3によれば、国民所得の昭和六〇年の指数は一二六一、消費者物価指数(東京都区部)の昭和六一年の指数は四〇二であって、このようなマクロ経済の指標をみれば、首都高速道路の料金は国民経済上も妥当なものといえる。

(原告の主張)

(一) 高速道路料金徴収の例外性

我が国の道路に関する基本的な法体系は、道路の管理の費用を、高速自動車国道を含めてその管理者が負担し、道路の通行者は負担しないことを原則としている。しかし、右の原則は、整備法によって高速自動車国道等においては、全く転倒することとなった。これは「公物」たる道路の本質に反するものであるから、例外的なものとしてこれを認めるとしても、高速道路の通行者から道路の管理費用を徴収する場合、その通行料金等の設定及び変更は、極めて厳格な基準の下に運営されなければならない。

(二) 整備法の料金基準の立て方

整備法の償還主義及び公正妥当主義は、前者によって当該高速道路から徴収されるべき料金の総額を算出し、その枠内での具体的料金の設定を後者で定立せんとするものといえる。償還主義基準は、徴収されるべき料金の総額を算出する基準となり得ても、その総額を前提として具体的な料金を定立する基準とはなり得ないからである。

(三)公正妥当主義の具体的内容

公正妥当主義は、基本的には、整備法一一条二項の「通行又は利用により通常受ける利益の限度をこえないものでなければならない。」という便益主義に準ずるものと解すべきである。道路を通行することにより現実に受けた利益の限度で料金を支払うという、いわば対価性を明確にした規定は有料道路制度全体を貫く普遍性を有することによるからである。したがって、公正妥当主義準は、料金が国民の財産権を不当に侵害するものであってはならないことを意味し、具体的には、料金の設定が、通行により通常受ける利益の限度を著しく超えるものであってはならず、また、各車種別の通行により受ける利益の限度の比率を基本的に維持したものでなければならず、かつ、道路整備特別措置法一一条二項の基準で勘案される事由以外の一切の事由(例えば通行による道路の損傷率等)も勘案して公正妥当といえるものでなければならないということであって、本件料金改定との関係では、現実に値上げの必要性のあることが公正妥当主義の実質的内容となるのである。

また、償還主義との関係でいえば、プール制は、整備法一一条一項に定める料金基準に抵触するもので、その法文上の根拠が明確でないといわなければならない。

(四) 本件料金改定における必要性の不存在

(1) 被告は、料金改定の認可申請のため、償還計画表の作成提出を義務づけられているが、本件料金改定の認可申請に当たり提出した償還計画表によれば、昭和六二年度の料金収入が一六〇二億円であるのに対し、実績は一七七七億円と一七五億円も上回っている。他方、支出においても計画では、管理費が一三九〇億円であるのに対し、実績は一三二八億円であり、六二億円の支出減となっていて、総額で二三七億円も計画より収入増となっている。仮に本件料金改定をしなくとも、料金収入実績は一六一五億円と、一三億円の増収となったはずであり、収支減少分六二億円は変わらないので、結局総額で七五億円の償還計画に対する増収となる。このことは、結果から見て、値上げの必要がなかったことを明らかにしている。右結果は昭和六三年度のおいても更に明らかであり、収支を総合すると約三八一億円の増収となる。

(2) 右(1)の結果は、被告としては十分に予見できたはずである。支出である管理費の六〇パーセントを占めるのは返済金利であるが、計画表によれば、昭和三四年から昭和六〇年までの平均借入金利を7.25パーセントとし、それを将来の金利として単純に延長している。しかし、これは、高金利時代のものであり、昭和六三年以降においてそのような高金利を払うことは通常考えられない。被告の借入金の大部分は一〇年間の長期債券であり、現在発行する債券の金利は一〇年間一律であるからである。昭和六三年以降の金利が六パーセント程度であることを予測することは容易であったはずである。

(3) 被告は、本件料金改定に際し、料金値上げのために作為的に仮象を作りだしている。

計画表によれば、被告の料金収入の過去の実績は、昭和三七年度から昭和六〇年度まで一度も前年度の収入額を下回ったことがないのに、昭和六一年度の料金収入だけが一四一五億八四〇〇万円と前年度の一四三六億三九〇〇万円を下回っている。しかし、昭和六〇年度までは実績であるのに対し、昭和六一年度は予想であり、実績は一四六七億円と、前年度を三〇億円上回っている。本件料金改定の認可申請の段階では、既に昭和六一年度の実績が判明していたにもかかわらず、初めての収益の前年度よりの減少という事実に反する予想をして、値上げの根拠としている。

また、昭和六一年度の金利を含む管理費の見積額は一三六八億二五〇〇万円であるが、実績は一三一六億円であり、見積額を五二億円下回っている。この実績は本件料金改定の時点で既に明らかになっていたのであって、支出額を理由とする値上げの必要性はなかったのである。ちなみに、昭和六二年度の費用についても、実績は一三二八億円であり、見積額を六二億円下回っている。

(4) 以上によれば、本件料金改定は、料金値上げの必要性がないのに行われたことが明らかで、整備法一一条一項、施行令五条一項等に反し、違法無効である。

3  その他の争点

(一) 本件料金改定は、整備法七条の四前段(及び同法一一条一項)に基づくものか、同法七条の四後段(及び施行令五条一項)に基づくものか。

(二) 割増金債権は被告の賦課処分によって発生するか、法律上当然発生するか。

第三争点に対する判断(この項での認定事実については、その事実記載の後に認定した書証番号を掲記した。)

一争点1について

1  首都高速道路の料金債権の発生根拠

整備法は、料金の賦課手続について何ら規定をおかず、首都高速道路の通行者から一律に料金を徴収するものとしていること及び同法上首都高速道路の利用関係は公共用物としての一般使用の関係であると解されることによれば、首都高速道路を通行したことによる料金債権は、通行という事実により法律上当然に発生する公法上の債権であると解される。なお、右料金債権について、同法はその強制徴収権能を付与しているが、そのことは、その債権の発生原因となった法律関係が契約に基づかない公法上の関係であることを示すに止まり、それが行政処分によって発生するものであるかどうかを識別する根拠となるものではない。

2  料金の微収及びその変更についての認可、公告並びに料金等の決定の法的性質

整備法の規定をみても、料金の微収及びその変更についての運輸大臣及び建設大臣の認可によって、首都高速道路の通行者について、直接その権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を生じさせるような規定は見当たらない。この認可は、行政組織における行政機関相互間の内部的行為に当たるものと解される。また、この認可に基づいて被告がする料金及び料金徴収期間の決定についても、右のような効果を生じさせる規定は見当たらない。更に、料金徴収の要件である官報での公告についても、これによって直接に個々の国民の法的な地位に影響を及ぼすような効果を生じさせるような規定を見出すことはできない。したがって、右認可、公告及び決定はいずれも抗告訴訟の対象となる行政処分ではなく、いわゆる公定力を有するものではないと解される。

3  料金額が整備法一一条一項に違反する場合の効果

以上によれば、首都高速道路の料金債権は、法律上当然発生する公法上の債権であって、その料金の額について法律上通行者を受忍させるような行政処分が介在するわけではないから、被告によって決定された料金の額が、整備法一一条一項の諸基準に反する場合には、その額の決定は、その反する限度において無効となるものと解される。被告は、償還主義及び公正妥当主義がいずれも行政指針であって、効力要件ではないと主張するが、同条項は、料金の額が、「その他の管理に要する費用で政令で定めるものを償うものであり、かつ、公正妥当なものでなければならない。」と規定しているのであって、この文言をもって、単なる訓示規定であると解する余地はないというべきである。被告は、償還主義は合理的・効率的な償還の実現のためのものであり、公正妥当主義は償還主義を合理的・効率的かつ適正に実現するための手段であると主張するが、これらの主義が、そのような行政目的を達成するためのものであるからといって、そのためにそれらが行政指針となるというものではなく、行政目的を達成するためのものであるかどうかということと、それがその基準に違反する行為の効力に影響を及ぼすものであるかどうかということとは、別の問題である。また、これらの要件は、抗告訴訟における原告適格を基礎づけるような、個々の道路交通者を保護する趣旨にでたものでないことは被告主張のとおりであるが、そうであるからといって、これらの条件が、効力要件とならないということはできないのであって、法は、このような要件を設定することによって、認定されあるいは変更される料金の額に一般的に枠付けをし、その枠内を出た料金の設定がされれば、それを無効とすることによって、不合理な料金設定を防止することとしたものと考えられるのである。同条項の文言は、効力要件としては、相当に抽象的なものではあるが、それは、要件としての幅の広さを示すものに過ぎず、幅そのものは存在するのであるから、具体的な料金の額がその幅の中に入っているかどうかの判断をすることは可能である。

4  結論

そうすると、整備法一一条一項の規定は、その料金の設定や変更についての効力要件であり、原告らは、本件料金改定の同条項適合性を争うことができると解される。

二争点2について、

1  プール制及びこれに基づく路線の指定の整備法又は施行令適合性

施行令は、償還主義についていわゆるプール制を定めるが、整備法は、償還すべき費用の範囲の決定をあげて政令に委ねているのであり、プール制の趣旨は、自動車交通上相互に密接に関連する路線については、これを一体として取り扱おうというもので、優に合理性を肯定できるから、政令が、このような制度をとることは、整備法の委任の範囲内にあるものと解される。そして、首都高速道路については、運輸大臣及び建設大臣は、全路線を自動車交通上密接な関連を有するものとして定め、その後被告が昭和六二年九月九日をもって供用を開始することとした首都高速葛飾江戸川線及び高速葛飾川口線についても同様としたことが認められる(<書証番号略>)。首都高速道路においては、路線中他のいずれかの路線と接続しないものはなく、全路線が自動車交通上密接な関連を有し、新たに供用された二線についても、その事情は異ならないことが認められる(<書証番号略>)から、右各大臣の指定も、優に施行令の委任の範囲内にあるものと認められる。

2  本件料金改定の償還主義適合性

(一) 償還主義適合性の裁判所による審査方法

整備法は、料金の決定について、償還主義及び公正妥当主義を掲げる他はあげて政令に委任しており、施行令も、償還する費用について項目を列挙した(一条の五)ほかは、プール制をとること(一条の六第一項)及び被告が割増金や占有料等を徴収し、又は補助金の交付を受けたときはこれらを償還額から控除すること(一条の六第二項)、料金の額は、プール制によるほかは料金の徴収期間及び利用効率を勘案して定めるべきこと(一条の六第三項)を定めるのみであって、これらの規定から直ちに料金の額を算定できるもではない。例えば、償還すべき費用には、将来発生する分も含まれているから、その推計が必要であるが、その推計方法や推計に当たって使用する金利等の変数の設定等は、算定する者が選択しなければならないし、これに見合う料金収入の総額を決定するための徴収期間の設定やその期間内における予想交通量の推計等も算定者において独自に行う必要がある。このような推計等が恣意的なものであってはならず、これによって得られる値が、現実の値の近似値として最も優れたものであることが学問的に証明される等高い合理性を備えるものでなければならないのは当然であるが、その推計手段や、採用すべき変数等は、関係科学の進歩や対象とする事実関係の異同等により変遷することが予測される。一方、法律や政令は、一定の期間は固定したものとならざるを得ず、時々刻々の情勢の変化に即時に対応することが困難であるから、このような算定手法や変数、異なる事実関係毎に対処する方法等について、その細部にわたって規定することは不可能である。整備法やその委任を受けた施行令は、そのような趣旨に基づき、料金額の決定についての具体的な算定を、これに当たる被告が、その当時の事実関係に基づいて専門技術的な見地から行使する裁量に委ねることとしたものと解される。そうであるとすれば、当裁判所も、また、被告のした料金の設定の法適合制を審査するについては、その裁量権の行使が、全く事実の基礎を欠くとか、行使方法に逸脱ないし濫用があるとかの事由があって、違法と評価されるという場合でないかぎり、これを尊重すべきものと解される。そこで、以下、この見地に立って、本件料金改定の償還主義適合性を検討する。

(二) 被告が償還主義を適用するについて一般的に採用している数値及び手法の法適合性(括弧内は、対応する被告主張につき、本判決第二四2(一)において記載した個所を指示するものである。)

(1) 料金徴収期間((1)③)

被告が料金徴収期間を一般的に三〇年としていることは、償還すべき額の多寡とその間に支払いを要する金利等の要素を勘案した総合的な判断によるものとして一般の常識にも合い、合理性に欠けるところはない。また、供用開始日についてもプール制を採用しており、その中の各路線には供用開始日が変わるものがある以上、これを各路線に共通の日としていずれかに固定せざる得ないから、被告が別紙四記載の算式により算出される換算起算日を採用していることも、合理的なものということができる。

(2) 交通量((1)④)

被告の交通量の推計方法、これに関する転換率式、料金弾力性値、都市圏に応じ東京線と神奈川線の二つに分けて交通量を推計していることは、技術的部分的については、交通工学上一般的に認められているものを採用したものとして合理性を有すると認められ(<書証番号略>)、その余の部分についても、首都高速道路を維持・管理する被告の合理的裁量によるものと認められる。

(三) 本件料金改定に至る事情((2)②)

以下の事実が認められる(なお、各支出項目等の金額について、被告は、積算過程を表す証拠を提出せず、積算の結果のみを示す証拠を提出しているが、原告も、特に各項目の金額が被告主張のとおりになること自体を争っているものではないうえに、被告は予算、決算等その財務及び会計の重要な部分につき建設大臣の認可や承認、報告書の提出等の手段により監督を受けており(首都高速道路公団法三三条、三五条、三九条、四四条、首都高速道路公団法施行規則九条から一一条まで等)、会計検査院による検査も受けている(会計検査院法二二条五号、首都高速道路公団法四条、弁論の全趣旨)から、各項目の金額が被告主張のとおりであることについては一応の正確性の担保がされている。これらによれば、本件においては、右の証拠によって、各項目の金額が被告主張のとおりであることを認定して差し支えないものと認める)。

① 被告は、従前の料金の額を定めた当時においては、支出として高速道路建設及び調査費一兆〇六二五億円のほか、管理費等三兆〇五二六億円合計四兆一一五一億円が計上され、これらを料金収入によって当時の換算起算日から三〇年後の昭和八一年三月までに償還するものとしていた(<書証番号略>)。

② 被告は、昭和六二年九月九日をもって首都高速葛飾江戸川線及び高速葛飾川口線の供用を開始し、運輸大臣及び建設大臣はこれらをプール制指定道路に組み入れた(前認定)。

③ 右②の結果、右①の高速道路建設費及び調査費が四五九三億円増加し、合計一兆五二一八億円となり、また、新規路線の供用により、管理費等も増加することとなった(<書証番号略>)。

④ 被告は、右②及び③の事由により、新築又は改築した首都高速道路について料金を徴収するため、整備法七条の四の規定に基づき、料金及び料金の設定期間について認可の申請をしたが、その際、改定後の料金が償還主義の要件に適合することを証するため、償還計画表を提出した(争いのない事実、<書証番号略>)。

(四) 改定料金が償還主義に適合するか否かを審査する判断基準時

前記のとおり、料金の改定は、運輸大臣および建設大臣に対する認可の申請とこれに対する認可、官報での公告という手続きを経る。この過程において、認可については、これに独自の効力が設定されているわけではないから、料金改定が有効となるためには右の認可が経由されていれば足りるものであり、その申請の際提出された、改定後の料金が法律に適合するものであることを証する資料に誤り等があったのにこれを看過して認可がされたというような暇疵は、料金改定の有効性に影響を及ぼさないと認められる。したがって、料金改定の有効・無効は、あくまでも料金改定時(具体的には、それが外部的に明らかにされる公告の時点)において、その料金が実体的に法律に適合しているものであるかどうかによって決せられるものと解される(逆に、認可そのものは、当時予測しうる数値に基づくものとして適法とされる場合でも、その後の事情の変化によって、公告時には料金が法に適合しないこととなれば、料金改定は無効となると解される。)。そこで、以下右の見地に立って、本件料金改定の公告時(昭和六二年九月四日の時点)におけるその償還主義適合性を検討する。

(五) 料金徴収期間((3)①)

被告の主張によれば、前記の新規に供用する路線を加えて別紙四の算式により換算起算日を計算した結果は、昭和五五年一二月となるから、被告は、これを参考として、料金徴収起算日をこれから二九年七月後としたというのであって、これらの算出や決定の過程に合理性を疑わせるものはないから、その設定は法に適合するものと認める。

(六) 費用の合算額((3)②)

被告は、費用の合算額を、別紙八のとおり、合計五兆六〇二五億〇九〇〇万円と算出しているが、その過程は以下のとおり合理性に欠けるところがないものと認められる(<書証番号略>)。

被告は、右のうち昭和六〇年度までの額は実績としての額である決算額によっているが、昭和六一年度のものは決算確定前であった。すなわち、同年度の決算は、被告内部においては七月三一日までに完結したものと考えられる(首都高速道路公団法三四条)が、決算については、財務諸表を建設大臣に提出してその承認を受けなければならないから(同法三五条一項)、その手続きが終了するまでは、被告としては、決算が確定したものとすることはできず、それまでは、そこに記載の数額を実績額であるとして採用しなかったところ、同年度の財務諸表についての承認は同年一一月に行われたことが認められる(<書証番号略>)。決算確定前は、そこに記載の数値を採用しないという被告の方針は、異論もありえようが、主務大臣が承認という監督権の行使をするについては、場合によって、決算の数値の変動が起こる可能性も否定できない以上、特別法により設置された法人の会計方針として合理性に欠けるとはいえない。そこで、被告は、同年度の額は、予算総額(建設大臣の認可を受けた認可予算額に前年度繰越金を加えた額)を計上し、昭和六二年度の分(但し調査費は、実績額によるので計上しない。次年度以降も同様。(<書証番号略>)は認可予算額を、昭和六三年度以降の分は計画額(高速道路建設費等については各路線毎の執行計画に基づく計画額、業務管理費はインフレータを用いて積算した計画額、一般管理費は、高速道路建設費及び業務管理費の割掛対象額の推移に相関した計画額、借入金利息等は、被告発足時から昭和六二年三月までの平均金利7.251パーセントを用いて算出した国内借入金利息、国際復興開発銀行借入金返済予定額及び地方借入金返済予定額をそれぞれ計上。<書証番号略>、弁論の全趣旨)をそれぞれ計上した。控除額は、補助金五九八億〇八〇〇万円であって昭和六一年度につき予算現額を計上した(昭和六二年度以降は廃止。<書証番号略>)。また、国際復興開発銀行等からの借入金元本は、費用ではないが、沿革的に費用として計上されてきており、その合計額一〇五億九七〇〇万円は控除する必要がある(弁論の全趣旨)。

なお、昭和六一年度の管理費の実績額が一三一六億円であって、右の予算総額より五二億円下回ったことは、被告の自認するところであり、この事実は、公告当時被告には判明していたことと考えられるが、前記のとおり当時決算が確定しておらず、被告は、確定した決算の数値しか採用しないこととしている以上は、この実績額を採用しなかったこともやむを得ないところであり、実績額がこの程度見積りを下回ったからといって、被告の償還金額の見積りが事実の基礎を欠くこととなるものではない。なお、昭和六二年度の管理費の実績も、右の見積りを六二億円下回ったことは争いのないところであるが、公告時においてそれが予測しえたことを認めるべき証拠はない。また、前記の借入金の金利は、長期にわたる予測に係るものであり、被告のしたような長期間の金利を平均して採用することも合理的な方法であって、これを7.251パーセントとしたことをもって、技術的裁量の範囲を超えるものとはいえない。

(七) 料金徴収総額((3)③)

被告は、料金徴収総額を、別紙八のとおり、合計五兆六〇二五億〇九〇〇万円と算出しているが、その過程は、以下のとおり合理性に欠けるところがないものと認められる(<書証番号略>)。

被告は、右のうち昭和六〇年度までの額は実績としての額である決算額によっているが、昭和六一年度のものは右(六)と同じ事情で、予算現額を計上した。その算出方法は、東京線、神奈川線毎に昭和六〇年四、五月の平均日交通量に過去五年間の交通量の推移から求めた平均的な伸び率を乗じて推計し、これに一台当たりの平均的な収入及び日数を乗じて算出した。

昭和六二年度の平均日交通量は、東京線、神奈川線毎に昭和六一年四、五月の平均日交通量に過去五年間の交通量の推移から求めた平均的な伸び率を乗じて推計した。同年度東京線の四月から九月までは交通量の増減の要素がなかったので右同年度の平均日交通量をそのまま用い、同線の一〇月から三月までの交通量は、新規供用が予定されていた葛飾川口線及び葛飾江戸川線の純増交通量を前記転換率式によって算出してこれを昭和六二年度平均日交通量に加算し、料金が五〇〇円から六〇〇円に改定されるとした場合に発生する料金抵抗による交通量の減算を前記料金弾力性値を用いてした。神奈川線については、交通量増減の要素がないため同年度の平均的日交通量をそのまま用いた。これら平均日交通量に一台当たりの平均的な収入及び日数を乗じて同年度の料金収入を算出した。

昭和六三年度のものについては、東京線の平均日交通量につき、前年度のそれから料金抵抗により減少する交通量及び東京線の都心環状関連交通量(首都高速道路のネットワーク体系上、これ以上の交通量の増加が見込み難い都心環状線に関連する交通量)を控除したものに、統計資料等から算出した伸び率を乗じ、更に伸び率の対象外とした東京線の都心環状関連交通量、葛飾川口線及び葛飾江戸川線の純増交通量を加算した。神奈川線は、基本的に昭和六二年度平均日交通量に統計資料等から算出した伸び率を乗じて算出した。これら平均日交通量に一台当たりの平均的な収入及び日数を乗じて同年度の料金収入を算出した。

昭和六四年度以降の料金収入についても、前年度と同様にして算出した。

なお、昭和六一年度の料金収入は一四一五億八四〇〇万円と、前年度の一四三六億三九〇〇万円を下回っているが、これは、予算上前年度の料金収入は一三二七億九八〇〇万円であって、昭和六一年度の予算上及び償還計画表上の料金収入の予測額は、その6.6パーセント増として算出していたところ、その後前年度の実績額が確定し、これを予算額と差し替えたが、昭和六一年度については、前記のとおり決算確定前で、実績額を使用できなかったため、結果的にこのような逆転現象が生じてものであって、そのことに被告の作為が働いたものとは認められない。また、昭和六一年度の実績収入額は、一四六七億円であることは、争いがなく、これは、右見積りを相当上回っていることが認められるが、右にみたところによれば、被告としては、その知識経験に基づいた可能な限り合理的な予測を行ってきているものであり、長期間における景気の動向やこれに伴う交通量の増減等は、正確な予測が困難であることは常識に属するところであるから、この程度の一致度であっても、合理性がないとか、事実の基礎が欠けているとかの評価をすべきものではない。そのことは、以降の年度においても同様である。

(八) 結論

以上によれば、改定料金による所定の費用の合算額と料金徴収総額とは、いずれも五兆六〇二五億〇九〇〇万円であって、見合うこととなるから、右料金は償還主義に適合していると認められる。

なお、被告の計算によれば、右料金改定を実施しないまま償還を続けたとした場合には、新規路線の供用開始によって料金徴収期間を昭和八五年一二月まで延長したとしても、九九六二億円の償還不足金の発生が見込まれることとなることが認められる(<書証番号略>)。

3  本件料金改定の公正妥当主義適合性

(一) 公正妥当主義の内容

道路は、高い公共性をもつ施設であって、租税収入をもって開設・維持し、誰でも無償で通行することのできるのが本来の在り方であるが、首都高速道路等の緊急の必要性のあるものについては特別に借入金をもって建設し、これを利用者から徴収する料金収入によって償還していくという例外的制度を設けたものであって、その料金は通行に対する対価としての性格よりも租税類似の負担金の性格が強いと認められること(<書証番号略>)に照らせば、整備法の要求する公正妥当主義の内容は、料金水準が通行者の利用を困難にする等必要以上の負担を掛けるものでなく、通行者がその通行によって通常受ける利益や他の有料道路及び公共交通機関の料金額との比較において、料金水準が社会的にも均衡の保たれているといえるものであって、公正であり妥当であると一般に受け取られるような料金であることを要求するものと解される。原告は、公正妥当主義は、整備法一一条二項に規定する便益主義に準ずるものと解すべきであると主張するが、立法の経過がどうであれ、現に同法は、首都高速道路の料金については、便益主義を適用していないのであるし、前記のとおり、有料道路の料金の設定については、種々の要素が考慮されるべきであって、便益主義も、その遵守が要求されていない以上は、一つの考慮要素となるに止まるという他はないから、右主張は採用できない。

そこで、以下公正妥当主義が右のような内容を持つものとして、本件料金改定が、公正妥当主義に適合しているかどうかを検討する。

(二) 本件料金改定に基づく料金体系の合理性

本件料金改定に基づく料金体系は、首都高速道路を東京線と横浜線の二つの区分しているが、これは、旧来の料金体系を踏襲したものであり、首都高速道路の路線が、東京を中心とした都市圏と横浜を中心とした都市圏の両者より成っており、これを一つの料金圏とすると、短距離の通行者の料金が割高になることを考慮したものである。また、車種により普通車と大型車の二種類に区分され、大型車については普通車の料金の額に比べて概ね二倍の金額が定められているが、この車種の違いを考慮した料金体系も、旧来の料金体系を踏襲したもので、普通車と大型車とでは、道路の占有面積、道路の構造自体に及ぼす負荷に差異があることによるものと認められ(弁論の全趣旨)、これら料金体系はいずれも合理性がある。

(三) 他の公共輸送機関の料金、公共料金等の値上げ幅の比較

本件料金改定は、普通車、大型車のいずれについても東京線に限り二〇パーセントの値上げをするものであるが、この値上げ幅が他の公共輸送機関や公共料金との関係で均衡がとれているかどうかをみるため、これらの料金の首都高速道路供用開始直後の昭和三八年度から昭和六二年度までの間における額の値上げ幅を、昭和三八年を一〇〇として指数に表すと、日本国有鉄道(旅客)、営団地下鉄、都営バス及びタクシー(東京)の各公共輸送機関の料金については、別紙七の1のとおりであり、電灯、ガス、水道及び郵便(はがき)の各公共料金並びに新聞購読料及び日本放送協会放送受信料については、別紙七の2のとおりであり、国民所得及び消費者物価指数(東京都区部)については、別紙七の3のとおりであることは、当事者間に争いがない。これによれば、各公共輸送機関の料金では、タクシー料金の値上げ幅が首都高速道路料金を下回る(後者が指数六〇〇に対し前者が四七〇)ものの、他の輸送機関は首都高速道路料金と同じか又はこれを相当上回っており、これらとの均衡はとれていると認められる。また、公共料金については、電灯、ガス、放送受信料の値上げ幅がかなり首都高速道路料金を下回るが、これらは日常生活に欠くことのできない極めて公共性の高いサービスであって、自動車による通行者を対象とする首都高速道路料金とは趣を異にするものであることを考えれば、必ずしも均衡がとれていないものとはいえず、その他の公共料金の値上げ幅は、ほぼ首都高速道路料金と均衡を保っているということができる。これに加え、国民所得や消費者物価指数の伸び率をも考慮すれば、本件料金改定の値上げ幅は、社会的にも均衡のとれたものであり、その料金水準が通行者の利用を困難にする等必要以上に負担を掛けるものとはいえず、二〇パーセントというのは、一時の値上げ率としてはやや大きい感があるものの、その結果は、決して一般国民に公正さに欠けるとか妥当性がないとか受け取られるような料金額となってはいないものと評価される。

(四) 結論

以上によれば、本件料金改定は、公正妥当主義にも適合するものと認めるべきである。

三その他の争点について

1  争点3(一)について

本件料金改定は、既存の東京線の路線については、料金の額の変更であるから、当然施行令五条に該当する場合であるようにみえる。しかし、首都高速道路の料金については、償還主義においてプール制がとられているところ、本件料金改定の直接の原因が、首都高速葛飾江戸川線及び高速葛飾川口線の新規供用にあることは、前認定のとおりであって、このことは、新規路線にとっては、路線の新設であるし、既存路線にとっては、路線の改築に当たることになる。本件料金改定は、この路線の新設及び改築について料金を徴収しようとするものであるから、この場合の整備法七条の四の適用については、その前段に該当するとすべきことになる。その意味では、仮に右新規路線の共用開始にかかわらず料金の増額をしないで足りることとなった場合でも、料金の設定及び認可は必要となるのであって、本件料金改定が、施行令七条の四の前段又は後段(施行令五条)のいずれに該当するかは、形式的な問題に過ぎない。

2  争点3(ニ)について

割増金についても、整備法は、同法七条の二第一項の規定に基づく料金の支払を不法に免れた者から、その免れた額の二倍に相当する額を徴収することができる旨、その支払義務者及び支払うべき金額の確定について裁量の働く余地のない規定をおいており、その賦課手続について何ら規定をおいていない。これらによれば、同法一四条の二の「徴収することができる」との文言も、料金に対する同法七条の二と同じく、単に徴収主体の割増金の徴収権限を規定したにとどまるものであり、割増金債権は、通行の事実のほか、「料金を不法に免れた」という事実が加わることにより法律上当然に発生する公法上の債権であると解される。

四結論

以上によれば、原告らの請求は理由がないこととなるから、これを棄却することとする。

(裁判長裁判官中込秀樹 裁判官榮春彦 裁判官長屋文裕)

別紙一ないし八 <省略>

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